2020-12-12
記憶の中のでんぶ
失敗は感動へ続く源。
幾度となく失敗し、苦難の時が長い程、それを乗り越えた後に訪れる感情は何よりも代えがたい感動です。
これは、私が失敗を重ねた末に訪れた感動への出来事。
「過ぎた事は気にしない」それが私の人生ですが、人生を振り返るとあの時に戻れるならば、と悔いてしまう事も出てきてしまいます。
その一つが健康であったはずの私の「歯」。
歯と病気には因果関係があります。
歯周病が糖尿病や心筋梗塞に密接に関係していることが最近の研究では明らかになっているそうです。
「歯は健康のバロメーター」そんな言葉を聞いたことがあります。
命と繋がっている「歯」は、人間がはじめに脆弱する体の部分なのではないでしょうか。
私が生まれた昭和26年は、肉や卵など食卓には無く、食べることが精一杯の戦後まもない時代。
幼少期には甘い「田麩(でんぶ)」(魚肉を加工して砂糖・醤油・みりんなどで煎ったもの)をご飯にかけて食べるのが普通で、虫歯になるのも普通でした。
思い起こせば、今のように歯を清潔に保つ為に徹底した歯磨きをする、そんな習慣も意識もなかったように記憶しています。
時が経ち、幼少期からの虫歯と歯槽膿漏に長年悩まされる事になるのは必然でした。
しかし、歳を重ねたこれからは本当にいい歯をつくろうと一念発起、町場の歯科医院へ通い始めることを決意しました。
そして、この歯科医院通いが失敗から感動へ繋がる物語の始まりとなるのです。
診察を受け、まず下の歯3本をインプラントの手術で治療します。
術後、綺麗な歯に生まれ変わった所まではよかったのですが、歯槽膿漏に蝕まれた上の歯が問題になりました。上は下の歯とは違い、支える骨が薄い為、インプラント手術は難しいとの説明を受けたのです。
歯は噛み合わせが重要です。
下の歯ばかり良くても、歯槽膿漏に蝕まれた上の歯が治療できなければ意味がありません。
仕方なく、上は部分入れ歯をつくるという選択に踏み切りました。
そこでお医者様から勧められたのが保険適用外の入れ歯。
費用にして38万円の出費となりました。
それからしばらく入れ歯を入れて過ごしてみたのですが、噛み合わせが悪く痛みを伴うようになりました。
さすがに生活に支障をきたす程の痛みは耐えきれず、思い切って自分でつくった入れ歯を加工してみようと思いたちます。
ものづくりに携わる職人の意地でもありました。
幸いにも以前、知り合いの技工士からいただいた工具を引っぱり出し、自分の噛み合わせの感覚を頼りに表面を削り、噛み合わせの良い状態に加工を施したのです。
それから半年、入れ歯の加工が原因かどうかはわかりかねますが、入れ歯は脆くも駄目になってしまいました。
再度同じ歯科医院へ訪れ、また38万円をかけて入れ歯をつくっていただきました。これで76万円の高額出費です。
しかし、つくっていただいた入れ歯はまたしても私には合わず、入れ歯をしている時の痛みは相変わらず。
常に入れ歯をする事ができずに、お客様とお会いする時だけは装着、そうでないときは外す、そんな繰り返しの日々を送っていると、いつの間にか入れ歯を紛失してしまったのです。
改めて歯科医院を訪れ、三度入れ歯の作製をお願いに行くと、お医者様は呆れ顔。
私はというと、またしても38万円の出費になるという思いで憂鬱でした。
治療を終え精算時、用意しておいた38万円を支払おうとすると、告げられた金額はなんと1万1千円、私は耳を疑いました。
入れ歯代でおよそ1/40の請求です。
お医者様が3度も38万円の請求をする事に気が引けたのでしょうか。
私には38万円の入れ歯と1万1千円の入れ歯の違いを見分けることができません、むしろ同じものに見えます。始めからこの値段で出来たのでは?
それからしばらく、私は歯医者に対し、物売りのように結局は「利己的な商売」なのか、と不信感を抱き続けるようになりました。
それでも私の歯は病み続けるばかり、歯だけでなく頭痛までひどくなってきた頃、この悩みを友人に相談しました。
「それなら民間の医者ではなく、大学の医者に行ったらいいよ」
歯医者なんてどこも同じ、ましてや大学と聞くと大袈裟で恐れ多いと躊躇してしまいましたが、どう足掻いても歯の痛みは治まる訳でもありません。
藁をもすがる思いで紹介された新潟大学医歯学総合病院へ向かったのです。
感動はここに繋がっていたのです。
担当いただいたのは、今もお世話になっている女医の秋葉先生。
秋葉先生はとにかく良い歯をつくろうと一生懸命で、患者に対し献身的な姿勢が見て取れます。
何より技術が秀でていて、歯を見ただけで微調整を繰り返し、訪問一回目にしてピタリと噛み合わせの良い入れ歯をつくっていただいたのです。
衝撃でした、今まで歯科医院に通っていた時間はなんだったのでしょうか。
失敗を繰り返し、ようやく長年の痛みから解放された感動、まるで神様に出会えたかのようなこの繋がりに、私が抱いていた歯医者への不信感は払拭されました。
歯科大学でつくった歯は4年経ちますが、未だに問題は見当たりません。
秋葉先生に出会い、担当いただけたのが私の幸運です。
医者はみな同じ、そう考えるのは間違いです。
患者に親身に寄り添う医者もいれば、物売りをする医者もいます。
それは、住宅づくりにも言えます。木の家はみな同じではありません。
物売りをする会社もあれば、建ててからお客様との絆を大切にする会社もあります。
以前、大手住宅メーカーで既に家を建てられた方が、夢ハウスの勉強会に参加された時にこんな事をおっしゃっていました。
「もっと早く夢ハウスを知っていれば良かった」
こう話されるお客様は1人や2人だけではありません。
多くの情報で溢れかえる今の時代、情報をいかに正確に取捨選択できる判断が私達には必要です。
2016年震度7の熊本地震の時も同時期に建てた2軒並んだ住宅。
片方は夢ハウスのパネル工法、もう一方は筋交い工法。
どちらも住宅の金額は同じだったはず、それなのに夢ハウスは無傷、筋交い工法は全壊。
施主は崩れた我が家の前で気の毒にテント暮らしを余儀なくされていました。
その情報が有益か、無益か、はたまた有害となりうるのか「価値を見極める力」を身につける事が無駄な失敗を減らし、感動へ続く近道に通じるのではないでしょうか。
そして、これは我々のような発信する側にとってみても大きな問題となるでしょう。
お客様の取捨選択をただ待つのでなく、企業側がいかに素早く有益な情報をお客様にどのように発信し伝えるか、それが企業に求められる課題となるのです。
本年も当ブログをご愛顧いただき、誠にありがとうございました。
今年一年振り返れば、新型コロナウイルスに振り回され医療でも経済的にも大打撃を受けた年であり、皆が皆感染予防や感染対策に翻弄された年でした。今年に限っては暗く悲しいイメージが先行してしまいます。
来年には、新型コロナウイルスも解決へ向かい、経済も光明が差し込む。
そんな一年を願い、皆様にとって幸多き年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。