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事例
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松本シュタイナー認定こども園 ひなたぼっこ様

代表理事 神澤 真江 様

Q.01-
事業内容について教えてください。

当園は保育園と幼稚園の両方の機能を併せもつ地方裁量型の認定こども園です。長野県には「信州やまほいく(信州型自然保育)認定制度」があり、当園はその特化型の認可を受けているこども園で、クラスは0〜3歳の親子クラスと、月1回の小学生クラスがあります。

新施設での運営は2021年3月よりスタートしましたが、その前は梓川にある古民家で活動していたんです。私たちの保育理念の根幹には、遊びの中に自然体験活動を取り入れる「シュタイナー教育」という考え方があり、最初の頃は子供たちを集めて森でお散歩したり、シュタイナー教育に興味がある人に向けて勉強会を開催していました。その頃のメンバーで保育施設を運営するようになって、今年で14年目になります。

今でも週の半分は古民家ですごし、隣接する森の中で焚き火をしたり、かまどでピザをつくったり、必要なものはすべて子供たちや親御さん、地域の方々と一緒につくっています。たとえば、竹でつくったカゴ、森の中で拾った木でつくった積み木、そのほかにも園内の家具やおもちゃのほとんどが自然素材の手づくりです。

Q.02-
木造施設の魅力を教えてください。

とにかく生命力があること。6月になれば“つもくなる”というか、湿気を吸ってすごく重くなるし、冬は乾燥してカラカラになります。積み木が落ちる音も変わるんです。乾いて“パキッ”という音がしたり、冬に薪ストーブをしたときは太い柱の小さな隙間がひらいたりしたこともありました。「生きてる」って、「変化がある」ってことなんですよね。

生命力に溢れる子供たちには、生命力があるものに触れてもらいたいですし、「食」においても同じです。近くの畑で採れる土のついた野菜は栄養価も高いですし、自分たちで田植えもしています。玄米を水に浸して芽が出てくるのは、まだ生命を宿しているということですよね。そういうものを体に取り込み、触れるもの、身に纏うものにも自然物を取り入れると、子供たちは元気になるし、多様な感覚が育ちます。

計り知れない感覚が人間にはいっぱいありますが、それを目覚めさせるには単一的な壊れないプラスチックではなく、布にしても、絹、毛糸、綿、リネンといった多様な素材に触れることが大切です。施設に使われている木材も、かたい木、やわらかい木、彫れる木など一つひとつの手触りや音に違いがあり、そこに魅力を感じています。

Q.03-
建築後のポジティブな変化を教えてください。

奇声をあげていた子供が、ここにいる時間が長くなると、だんだん落ち着いてくることがあります。自閉症の子は感度がいいので、目や耳にうるさくない空間にいると、人が変わったように穏やかになるんです。だから自閉症や触覚過敏の子は、当園には長く居られますが、冷たい白い壁やタイル張りの施設だと“園の中に入ることさえできない”ということもあります。当園では症状がひどい子がいる場合、部屋の中にドームのようなものを置いてもぐれるようにしたり、布にくるまったり、すぐに対応できるようにしていますが、この子たちのことを思うと、木造はコンクリート造よりも温かみがあり、より家庭的な環境を園内につくりやすい点が大きなメリットだと感じています。

また親御さんたちが当園に来ると「ここに泊まりたい」とおっしゃることがあります。子供たちも「帰りたくない」と。みんな延長保育を希望して、もっと長く居たいという気持ちになるようです。そういう思いにさせてくれる空間で木に敵うものはないと私は思っています。

Q.04-
夢ハウスを知ったきっかけを教えてください。

主人が大工をしていて、短い期間、夢ハウスのお手伝いをしていたんです。そのときに「コンセプトがすごく素敵だから、きっと好きだと思う」と教えてもらいました。実際にモデルハウスに行ってみたら、和洋の空間づくりやセンスがとても素敵で、そのときに新建材と無垢材の違いも知りました。

その後、家族で宿泊体験に行き、冬の薪ストーブの暖かさを実感したんです。天井は吹き抜けているのに部屋全体が暖かく、美味しい食事もいただいて、本当に至れり尽くせり。「ここまでしてくれる不動産会社があるのか」と感動しました。

新潟の伐採ツアーも、とても面白かったです。私は普段から子供たちと森の中で遊んでいるので、森への愛着は人一倍ありますが、伐採ツアーを通じて夢ハウスが、木材を適材適所に使い分け、木の良さを最大限に活かしていることがよくわかりました。

そんな夢ハウスの「適材適所」の家づくりはまさに、私たちの保育理念にも重なります。子供は一人ひとり才能が異なり、一人ひとりが光っているんです。「虫探しはこの子」「砂遊びをさせたらこの子」みたいに、私たちも子供たちの適材適所の光を見つけ、大切に育てていきたいと思っています。

Q.05-
薪ストーブの使い心地はいかがですか?

おそらく薪ストーブのある保育施設は当園が初めてだろうということで、実現できるかどうか心配でしたが、とくに問題なく設置できました。割と大きな薪ストーブなので、薪をバンバン入れてしまえば、そんなに手間がかからないのもいいですね。

オーナーだけが購入できる「ブリケット」は灰も出ず、とてもクリーンで気に入っていますし、煙突掃除のメンテナンス時期には声をかけてくださるので、知識がなくても掃除のタイミングがわかってありがたいです。

夏になると換気扇のメンテナンスをお母さんたちと一緒にやっていますが、その際には、夢ハウスからいただいたメンテナンス講習会の資料をコピーしてお渡ししているんです。建築後もこうやってサポートしていただけるのは本当に助かります。

Q.06-
立地条件や土地のこだわりはありましたか?

まず「森が身近にあること」が立地条件でした。なければせめて、林があるところに限られていたので、けっこう広範囲に探し回っていたんです。ここはよく通る場所だったので、鬱蒼とした原生林のような、手つかずの森だったことは以前から知っていました。当初から「この場所に建てたい」と考えていましたが、金額面で難しく、一度は諦めたんです。それから2年間くらい探し回りましたが、なかなか良い土地が見つからず、再びここに戻ってきました。最終的に森の木はほとんど伐採することになりましたが、少しだけ残った木々と、子供たちの体幹を鍛える斜面が身近にあったこの土地に建築することに決めました。

Q.07-
「建築前の不安」「建築後の不満」があれば教えてください。

通常の家屋だったら問題ないと思いますが、当園は福祉施設なので「燃えにくい素材の木材」を使う必要がありました。防火という観点で、そのような不燃材を使う箇所が想定以上に多かったのは事実です。ただ私たちは専門的なことは何もわからないので、夢ハウスに調べていただき、土地探しのときからさまざまな相談にご対応いただきました。

あと期待はずれとまではいかないですが、園内のドアは引き戸を採用しているので、小学生が強めに開閉すると壊れてしまったり、指を挟んでしまったりすることもあって、安全管理の面で配慮が足らなかったと感じています。引き戸に鍵がないことも不便ですね。自閉症の子が勝手に外に出てしまわないように、また子供だけで水場などの危険な場所に入らないようにするためにも、鍵がかかるドアもつくればよかったと思っています。

Q.08-
新施設でいちばん実現したかったことは何ですか?

新施設の建築にあたり、化学物質過敏症の親御さんは「自分たちは通えなくなるかもしれない」というご心配がありました。万一、子供が舐めてしまっても問題がない床であること。さらに、安心・安全に配慮したクロスやおもちゃの採用はもちろん、古民家で活動していたときと変わらない雰囲気と安全性は、いちばん実現したかったことです。

当園では虫除け剤やトイレの掃除道具もすべて無添加のものを使っています。アトピーがひどい子もいるので、シックハウス対策も万全にしておく必要がありました。「食」にも気をつけているからか、親御さんからは「ここにいると調子がいい」というお声をいただきますし、わざわざ遠くから通ってくれている親子もいます。

Q.09-
「もっと居たい、明日も来たい」と実感できる理由を教えてください。

温もりだと思います。たとえば、ただポンと照明を天井にくっつけるのではなく、あえて照明の周りを木で囲うデザインを施しているところに、当園と同じ価値観を感じています。

私たちはテレビなどの無機質なものに、あえて布をかけて和らげていますが、夢ハウスはそういう工夫がうまいですよね。空間のどこを見ても柔らかさがあり、温もりを感じます。

木をふんだんに使っている住宅というのはカドカドしているところが結構ありますが、新施設では角を丁寧に面取りしてあるので丸みがあります。これはきっと新潟の工場の大工さんたちのこだわりですよね。面取りをしているか否かで柔らかさが全く違うんです。

「直線」は無機質を連想させるというか、人間界のものなので、私たちは普段から「曲線」を意識して活動しています。保育士のエプロンも襟の部分に丸みがあるものを着用していますし、絵を描く画用紙も4つの角をすべて切り取って丸くしています。これは顕在意識で絵を描くのではなく、潜在意識で絵を描いてもらいたいという思いがあるからです。

Q.10-
職員の皆様にポジティブな変化はありましたか?

朝、子供たちが来るまでにお部屋に必要なものを設置したり、季節の飾り付けをしたりすることを私たちは「しつらえ」と言っています。木でつくられた素敵な空間だと飾りがいがありますし、「しつらえ」がとても楽しくなりました。季節のものをしつらえるネイチャーコーナーには、どんな布や絵を飾っても “映える”ので保育士のモチベーションが高まります。お店屋さんごっこをするにも素敵なお店になるので、子供たちも保育士と同じようにモチベーションが上がっているはずなんですよね。

職員室も、とても素敵なんですよ。リビングのようにくつろげる空間で職員会議をするので殺伐としないんです。保育士たちはアロマで自分の手をマッサージしたり、お客さんが来るときはそのアロマをテーブルの裏に染み込ませたりして心地よい空間をつくってくれています。送別会や新年会も園内で実施するようになりましたね。お風呂もありますし、お店よりもくつろげる空間なので、みんな夜まで何時間もいます。毎月2回、東京から専門の講師が来る際もここに宿泊してもらっていますし、シュタイナー関係の教員研修も研修センターではなく、ここを使いたいというご要望がありました。たしかに無機質な空間で研修を行うより、堅苦しくなくていいかもしれません。

Q.11-
地域交流はありますか?地域の皆様からの評判はいかがですか?

11月にはこんにゃくづくりを教えてくれるおばあちゃんが来てくれたり、紙飛行機をづくりに近所のおじいちゃんがヒョンっと顔を出してくれたり。地域の無農薬の田んぼを借りてお米づくりもしていますし、どんど焼きといった交流などもあります。

新施設が建った頃、地域の皆さんからはまず「保育園には見えない。まるでお家ですね」と言ってもらえました。また去年の秋に松本市長がいらしたときには、「地方裁量型認定こども園の認可をしているので書類は見せてもらっているけど、このようなコンセプトで活動をしていることを知れてよかった」というお言葉をいただきました。

Q.12-
将来的にチャレンジしたい空間づくりがあれば教えてください。

いつか天井が高いお部屋に白樺のツリーハウスのようなものをつくりたいです。階段を上がるとツリーハウスがあって、滑り台で下まで降りてこられるようなものや、木登りを楽しめるお部屋をイメージしています。

長野県では、【「子どもの居場所」木質空間整備事業】というものがあり、私たちはそれを活用しておもちゃを購入することがあります。ただ木育空間や木のおもちゃをつくっている会社が県内では非常に少ないので、トータルデザインの木の家具、おもちゃ、木のボールプール、壁につけられる黒板などを、ぜひ夢ハウスにつくってほしいと思っています。

以前、伐採ツアーに行ったときに木でつくられたショベルカーの置物がくじ引きで当たったんです。おもちゃではありませんでしたが、子供が遊びたがっていたので渡したら、やはりすぐ壊れてしまいました。もし木でつくられたおもちゃが子供部屋に置いてあったら「お家と一緒に、このおもちゃのあるお部屋をまるごとください」というお客様もいらっしゃるかもしれませんよね。

Q.13-
最後に今後の展望やメッセージをお願いいたします。

0歳からお年寄りまで日常的に触れるものって、私たちの心身にすごく影響しています。

家具から発せられる匂い、目から入ってくる刺激、建物と自然が触れ合う音。そういったものが心と体をつくっているので「幼児だから自然素材のものがいい」というわけではなく、生きている間はずっと自然素材に触れて過ごすことができれば、私たちはもっと健やかな心身を保持できると思うんです。

このようなことをより多くの人に知っていただくことも私の役割だと思っているので、これからも0歳からの親子クラス、妊婦さんにも触覚体験のワークショップを実施し、自然素材の魅力に触れていただく機会を積極的につくっていきたいと考えています。